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コラム
行政不服審査法施行5年後見直し
2022年08月
弁護士: 濱 和哲
分 野:
1 附則に基づく見直し
行政不服審査法は、平成28年4月に大幅改正がされた後、施行後5年が経過したところである。改正時の附則において、改正後の施行状況を踏まえて見直しを行うとされていたことから、今般、法令を所管する総務省において施行状況に基づく見直しが行われていた(「5年後見直し」)。
総務省に設置された「行政不服審査法の改善に向けた検討会」(座長:髙橋滋法政大学法学部法律学科教授)は、昨年10月に「中間取りまとめ」を公表した。中間とりまとめは、改正行政不服審査法の個々の改正・制度整備の運用状況に係る現状分析や論点の検討を行った結果をとりまとめたものであり、すでに意見募集の手続(パブリックコメント)も実施されたところである。
中間とりまとめは、改正法を「迅速な救済」「制度の活用促進」「公正性の向上」の観点から評価をした上で、①審理手続の担い手の確保・育成、②不服申立てに関わる各主体の体制の整備、③運用マニュアルに沿った手続の徹底、④国民に対する情報提供及び審査庁・処分庁間の連携の推進、⑤行政不服審査会等の答申における付言の活用が必要であると総括した。その後の本年3月には最終報告が行われたが、その内容はおおむね中間報告と同様であり、運用面での改善提案はあったものの、法改正にかかる提案はなされていない(詳細は、総務省のホームページに掲示されている)。
2 検討会報告に対する評価
検討会報告によれば、今般の5年後見直しにおいては個別の法改正は想定しておらず、マニュアルの改定等による運用面の改善に主眼が置かれている。しかし、施行後5年間の実情を踏まえた場合、マニュアルの改定等による対応ではなく、法改正により改善が図られるべき課題も多いと考えられる。
審理の迅速化のためには審理員が早期に指名される必要があるが、審理員の指名に長期間を要した結果、審理期間が長期化する事例が報告されている。指名が遅れることによる審理の長期化を回避するためには、審理員の指名する期間を法定する旨の改正が望ましい。また、審理の担い手である審理員の質の向上という課題に対しては、審査庁が任用の手続を経ずに外部の者に委託できるための改正が望ましいとも考えられる。
口頭意見陳述があまり活用されていない実態に対する改善としては、審理員が審査請求人に対し、個別に意向聴取をする仕組みを法定することも積極的に検討すべきであると考えられる。
3 残された課題への対応
検討会報告では、行政不服審査手続における不当性審査のあり方(違法性との区別)についても引き続き事例の精査・検討を行うものとされており、不服申立手続のオンライン化についても具体的な対応を検討するとしている。
不当性審査と違法性審査の区別の問題は、不当を理由とした取消しがされることによる救済範囲の拡大という観点から積極的な検討がされるべきである。また、オンライン化の促進により、行政不服審査がより簡易・迅速な救済手続として広く定着することを期待したい。
以上