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コラム
コロナ禍における賃借人の対応
2021年04月
弁護士: 青木 晶子
分 野:
1 初めに
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、政府は昨年4月及び本年1月に緊急事態宣言を発出し、直近では大阪等でまん延防止等重点措置が適用されました。その結果、多くの事業者が店舗の営業休止又は営業時間の短縮等を余儀なくされ、店舗運営に苦慮されてます。このような状況下において、感染症の拡大の影響によりテナント等の賃料の支払いが困難になった場合、賃借人は以下のような対応が考えられます。
2 賃料の支払猶予、減免等の交渉
賃料に関わる賃貸人との交渉においては、賃料の猶予を求める、賃料の減額を求める等の交渉を行うことが考えられます。
まず、賃料の支払猶予につき、国土交通省は、令和2年3月31日付けで、各不動産関連団体に対し、「新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、その置かれた状況に配慮し、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の実施」の検討を要請しました。上記要請を足掛かりに賃料の支払猶予を申し入れることが考えられます。
賃料の減額についても、賃貸人が協議に応じない場合も多々ありますので、そのような場合には、借地借家法32条に基づく賃料減額請求を行う方法もあります。
賃料減額に関しては、民法611条1項を根拠に請求することも考えられます。同項は、賃借物の一部が滅失その他の事由により使用収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、使用収益をできない部分の割合に応じて賃料減額を請求することができる旨を定めています。感染症拡大の影響で賃借物の使用が制限を受けたような場合(例えば、賃貸人が賃貸借建物の閉鎖を決定した場合、都道府県知事から賃貸借対象となる施設の使用の制限又は停止等の要請(特措法24条9項、第45条第2項)がなされて使用収益ができなくなった場合など)には、「その他の事由」に当たるものと考えられます(改正前民法が適用される場合でも、改正前民法611条1項の趣旨を類推適用し、同様の結論となるものと解されます(東京地判平成10年9月30日判時1673号111貢参照))。
3 契約の解約(中途解約)
感染症拡大の影響で売上が急減し、今後も収支改善が見込めない場合、賃貸借契約を中途解約して退去することも想定されますが、定期建物賃貸借契約では、賃借人側から中途解約をする場合、本来の賃貸借期間の満了までの賃料相当額を違約金とする条項が設けられているものがあり、残存期間が長期に亘る場合、違約金が高額となることから賃借人側からの中途解約が極めて困難となる可能性があります。
この点に関し、東京地裁平成8年8月22日判決は、賃料1年分を超える部分の違約金につき、賃借人に著しく不利であるとして、公序良俗違反を理由として無効と判断しています。このような裁判例を参照しつつ、賃貸人に対して、違約金減額に関する交渉をすることが考えられるでしょう。