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コラム
ティール組織
2020年06月
弁護士: 濱 和哲
分 野:
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、テレワークの導入が一気に進み、働き方が大きく変わるきっかけとなった。テレワークは、今後の新たな生活スタイルの一部として、社会に定着していくことが期待される。
他方、使用者側からは、テレワークになると従業員が仕事をしている様子が見えないという不安や不満も聞かれる。こういった不安や不満への対策として、テレワークでも従業員がちゃんと仕事をしているかをチェックするソフトやツールも多く開発され発売されている。
会社も一つの「組織」である以上、使用者がこうしたソフトやツールを用いて従業員の労務管理を行おうとすること自体は当然であるとも思われる。しかし、「ティール組織」の著者フレデリック・ラルーによると、「組織」のあり方を長い目で見直してみたとき、「組織」=「管理」とは限らず、むしろ、「管理」の呪縛から解き放たれた組織(ティール組織)すら存在するという。
ラルーの分類によれば、人類の組織は次のような進化を遂げてきた。
① 衝動型(レッド)
原始的な王国下において、力で支配する部族社会ができた。
② 順応型(アンバー)
人類が農業を始め国家や文明を生み出したころ、権力者を中心とした秩序が生まれ階級社会が登場した。
③ 達成型(オレンジ)
現代における主流な組織。実力主義と目標管理のもとで組織を運営する。
④ 多元型(グリーン)
実力主義や目標管理に疑念を持つポストモダン思想を背景として、個々の考えを尊重すべきとする組織。
⑤ 進化型(ティール)
組織の目的実現のために集まる人たちが、お互いの信頼と自律のもとで動く組織。
ティール組織は森に例えることができる。比喩的にいえば、森の木々や植物は、誰かに管理支配されるわけでもないのに、背の高い木は背の高い木としての役割を果たし、背の高い木の下で成長する木々や草は、その場所でその環境にあった成長をしている。地面には日陰でも育つ植物やコケが生えており、それでいて森全体は一定の統一を保っている。ここでは、それぞれの植物が自らの個性のもとで自律的に森全体を形成するための役割を果たしている。森には管理や支配といったものは存在しない。
では、自律的組織を人間組織において実現することはできるか。著書では、オランダの地域密着型在宅ケア事業を提供する組織(ビュートゾルフ)や欧州の自動車用変速機製造会社(FAVI)の例があげられている。日本でもティール組織の考え方に基づいて会社を運営している例としてサイボウズ㈱が有名である。
ティール組織は3つのキーワードで説明されることが多い。
① セルフマネジメント(自己管理)
② ホールネス(全体性)
③ 進化する目的
①に「管理」とあるが、上司が部下を管理する場合の「管理」とは異なる。ティール組織では、組織に属する者はどんな意思決定でもできるが、意思決定にあたっては全関係者とその意思決定にかかる問題の専門家に対し助言を求める必要がある。これは助言プロセスと呼ばれるものであり、ティール組織の特徴の一つでもある。またティール組織では、社内の多くの情報が社員に対し公開されている。ティール組織では、公開された情報のもとで、組織にある者が自らの個性と役割を認識し、自律的に責任ある活動を行っている。
当然のことながら、ティール組織がすべての会社・組織にとって有用であるとまではいえないが、組織運営を考えるヒントであることは間違いない。コロナ対応が引き続き求められる中、仕事のやり方や組織のあり方も変容を迫られている。ティール組織の考え方をヒントにして、それぞれが属する組織のあり方を考えることは有益であると思われる。
(2020年6月29日)