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コラム

消費増税に伴う消費税の適正な転嫁について

2019年10月

弁護士: 濱 和哲

分 野: 独占禁止法、下請法

1 消費税の段階的引上げと仕入れ税額控除

 令和元年10月から消費税率が10%に引き上げられることが予定されています。
 消費税は、世代間での負担が公平であり経済活動に対し中立的な税として、平成9年4月に3%から5%、平成26年4月に8%と、段階的に引き上げられてきました。

 消費税は、言葉のとおり消費者が実質的に負担する税ではありますが、消費者自身が納税義務を負うのではなく、例えば、百貨店で衣料品を購入する場合を例にとれば、衣料品を販売する百貨店が納税義務者となります。
もっとも、百貨店も卸売業者から衣料品の仕入れをしているわけであり、卸売業者に対しては消費税込みの価格を仕入代金として支払います。

 さらに、卸売業者は製造業者から仕入れをする際、同じように消費税込みの仕入代金を支払っており、「川上(かわかみ)」に向かって取引の連鎖があるのが通常です。
 消費税は、こういった取引の連鎖において「仕入税額控除」という制度を設けており、消費税の納税義務者は、仕入れ等の際に支払った消費税額を控除して消費税を納めます。

2 消費税の転嫁拒否行為の禁止

 消費税は、取引の連鎖に登場する各事業者が適切に支払うことで、適正な納税がされることを想定した税金です。
そのため、購入業者が仕入業者に対し、取引額に対応する消費税を支払わない場合、仕入業者は過大な税負担を負うことになり、税の公平負担が実現できません。
 消費税の支払いを免れるため、取引対価を事後的に減額させたり、合理的な理由なく対価を低く設定することは、下請法上も禁止の対象となり得る行為ですが、こういった行為は消費増税のタイミングで生じやすい傾向にあることから、消費税転嫁対策特別措置法は、「減額」や「買いたたき」といった転嫁拒否行為を禁止しています。

3 増税のタイミングにおいて注意すべきケース

(1) 消費税増税分を免れる意図で仕入業者に対する支払を留保するような場合はもちろん、以下のようなケースも転嫁拒否行為に該当するので注意が必要です。

 

【ケース1】
「内税取引」で仕入取引を行っている場合において、増税後も同額での取引を継続した場合、取引に伴うコストが削減されているような特別の事情がない限り、買手は増税分の支払をしていないことになり、転嫁拒否行為になる可能性がある。

 

【ケース2】
不動産の賃貸借契約において、賃料を税込みで契約している場合、消費税の増税後も税込みの賃料しか支払わなかった場合は、転嫁拒否行為に該当すると考えられる。

 

【ケース3】
取引の相手方が消費税の免税事業者のため消費税の支払をしなかった場合も、転嫁拒否行為となる。相手方が免税事業者であっても、消費税の支払は必要である。

 

(2) 消費税転嫁対策特別措置法は、消費税の支払を拒否するケース以外の行為として、例えば、以下の行為を禁止の対象としています。

 

【ケース4】
買手が売手に対し、税込価格しか記載できない見積書の様式を指定して、指定した様式以外の見積書を受け付けない場合は、税抜価格での交渉の拒否行為として、禁止の対象となる。

4 まとめ

 このようにみると、意図的に消費税を免れる場合はもちろん、それ以外でも、消費税転嫁対策特別措置法の禁止行為に該当する場合があることが分かります。禁止行為違反の場合には、公正取引委員会等による指導・勧告の対象にもなりますので、増税時にはとくに注意が必要です。

(2019.9.26)
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