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コラム

公定幅運賃制度

2016年12月

弁護士: 山下 侑士

分 野: 監督官庁・許認可

1 タクシー運賃をめぐる規制

 タクシー事業者がタクシー運賃を定めるにあたっては、道路運送法に基づき、各地方の運輸局長の認可を得る必要があります。
 しかし、「特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」が議員立法により成立したことにより、平成26年4月以降、特定地域及び準特定地域においては、これまでの”認可制”に代わって、「公定幅運賃制度」という”届出制”が導入されました。

2 「公定幅運賃制度」とは

 タクシー事業者は、特定地域及び準特定地域においては、地方運輸局長が定めた運賃の範囲(これを「公定幅運賃」といいます)内で運賃を定め、これを届け出なければなりません(この制度を「公定幅運賃制度」といいます)。
 「公定幅運賃」の範囲外の運賃を届け出た場合には、地方運輸局長から当該タクシー事業者に対し、「運賃変更命令」(公定幅運賃の範囲内の運賃に変更せよという命令)が発せられ、それでも従わない場合には、輸送用施設の使用停止処分が出され、最終的には、事業許可が取り消されることになります。

3 「公定幅運賃制度」の問題点

 道路運送法の下では、タクシー事業者は、同法の要件をクリアすれば、その企業理念や経営努力等に応じて、個別に運賃を設定することができました(個別申請・個別認可)。
 しかしながら、「公定幅運賃制度」の導入により、一律に「公定幅運賃」が定められ、それ以外の運賃は一切認められないことになりました。
 また、同制度の導入においては、実態調査やその結果に基づく原価計算の見直し等が行われることはなく、道路運送法下で利用されていた「自動認可運賃」(個別申請が認められていた当時、行政上の便宜から、行政が定めた範囲内の運賃で申請すれば、自動的に認可するとしていた運賃)をスライドさせて、「公定幅運賃」が設定されました。
 その結果、これまで経営努力等により、(「自動認可運賃」の下限を下回る金額ですが)道路運送法上は適法に認可を得ていた運賃が、公定幅運賃制度の下では「公定幅運賃」から外れ、違法となる事態となりました。

4 タクシー事業者による訴訟提起等

 このような公定幅運賃制度に対し、複数の低額運賃事業者は、同制度が「営業の自由」を不当に制約するもので違憲であり、また、「公定幅運賃」の範囲の指定が地方運輸局長に与えられた裁量権の範囲を逸脱濫用するもので違法であるとして、大阪地裁、福岡地裁、青森地裁において、「運賃変更命令」等の差止めを求める訴訟を提起しました。
 また、併せて、差止訴訟の判決が出るまでの間、地方運輸局長がこれらの処分を行わないよう、仮の差止めの申立ても行いました。

5 裁判の状況

 これまでに、大阪、福岡及び青森の各地裁は、「公定幅運賃」の設定が地方運輸局長の裁量権の範囲を逸脱濫用するもので違法であるとして、いずれも仮の差止めを認める決定を行い、さらに、各高裁も、同決定に対する国の即時抗告をいずれも退けました。また、大阪及び福岡の地裁・高裁では、本案である差止訴訟について認容する判決が出されています。
 なお、上記の公定幅運賃制度をめぐる一連の裁判のうち、最初に出された裁判所の判断は、当事務所の弁護士が代理人を務めた大阪地裁での仮の差止めの認容決定であり、その後に続く裁判に少なからず影響を与えたのではないかと思われます。

6 「公定幅運賃」の見直しへ

 タクシー事業者の申立を認める司法判断が相次いで出されるなか、国土交通省は、「公定幅運賃」の下限運賃について、下限割れ事業者の経営実態も考慮しながら引下げを検討する旨を発表し、現在、下限割れ事業者の原価に関する調査が行われている模様です(平成28年7月時点)。
 他方、一部地域においては、タクシーの初乗り運賃をこれまでの運賃よりも安く設定することができる運用が開始される予定であり、タクシーの運賃は多様化の様相を見せています。いずれにしても、一連の司法判断の趣旨に沿ったものであることが強く求められます。

(事務所報 №12 2016年8月号掲載)
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