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コラム
「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」 について
2016年08月
弁護士: 林 祐樹
分 野:
1 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の設置と運営状況
平成26年2月に策定・公表された「スチュワードシップ・コード」及び昨年6月に適用が開始された「コーポレートガバナンス・コード」(以下、「CGコード」といいます。)の普及・定着状況をフォローアップするとともに、上場企業全体のコーポレートガバナンスの更なる充実に向けて、必要な施策を議論・提言することを目的として、昨年8月、金融庁と東証が「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、「会議」といいます。)を設置しました。
平成28年4月1日現在、計6回の会議が開催され、2つの意見書が公表されています。CGコードの適用開始からまもなく1年を迎える状況において、これらの意見書は、持続的な成長を目指す企業にとって参考になるものと思われるため、順次ご紹介させていただきます。
まず、昨年10月20日に公表された「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況と今後の会議の運営方針」と題する意見書(以下、「意見書(1)」といいます。)をご紹介します。なお、会議の議事録等や意見書は、以下の金融庁のサイトで公表されています。
2 意見書(1)について
(1) 「これまでのコーポレートガバナンス・コードへの対応状況」について
意見書(1)では、まず、「これまでのコーポレートガバナンス・コードへの対応状況」として、各原則が実施(コンプライ)されている率は高く、独立社外取締役の導入が進んでいるほか、政策保有株についての方針の開示に進捗が見られること、これらの高いコンプライ率等が真に実質を伴ったものとなっているのかを検証していく必要があることが指摘されています。
他方、①コンプライすることを所与のものとして、説明(エクスプレイン)することを躊躇する傾向が見受けられること、②形だけコンプライするよりも、コンプライしない理由を積極的にエクスプレインする方が評価に値するケースも少なくないこと、③コンプライしつつ、具体的な取組みについてエクスプレインしているものについては、企業と投資家との間の建設的な対話に資するものであることから、参考とされていくべきとの指摘がされていることが紹介されています。
その上で、意見書(1)は、エクスプレインの方法等について、各企業において更なる工夫が行われていくことを期待しています。
上記の点からすれば、今後、企業においては、各ステークホルダーに対する「エクスプレインの充実」が求められていくこととなるのではないかと考えられます。
(2) 「今後のフォローアップ会議の運営方針」と第1回の議論について
次に、意見書(1)は、「今後のフォローアップ会議の運営方針」として、ガバナンス体制の強化が形式だけでなく実質を伴ったものとなっているか等の観点から、議論・検証をすることとしています。
そして、第1回の会議で、①取締役会の役割として、CGコードを真に実現しているというためには、単に社外取締役の設置ということにとどまらず、監督と執行の分離等のあり方等を含めたガバナンス全体のあり方についての真剣な検討と、当該検討に基づいたガバナンス体制の全般的な見直しが必要となること、②経営トップの選任や解任は極めて重要な問題であること、③政策保有株に対する対応を注視していく必要があること、④機関投資家が企業経営者に「気づき」を与えるような対話の水準に達していないことといった問題提起がなされたこと等が紹介されています。
このような議論状況を適宜フォローしておくことは、自社のガバナンス体制の強化にとって参考となるものと考えられます。
次に、本年2月18日に公表された「会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方」と題する意見書(以下、「意見書(2)」といいます)をご紹介します。
3 意見書(2)について
意見書(2)では、冒頭で、平成27年12月末日までに、約7割超える上場企業が、コーポレートガバナンス・コード(以下、「コード」といいます)への対応状況を公表し、高い比率でコードの各原則が実施(コンプライ)され、開示や説明(エクスプレイン)をステークホルダーに対してわかりやすく伝えようとするなど、コーポレートガバナンスの向上に向けた動きが広がっていることが紹介されています。
その上で、取締役会を巡る動きでは、監督機能のあり方が議論され、大きな変化が起きていること、他方で、取締役会の構成、運営、評価、改善についてはこれから取り組みが本格化することなどから、現時点で重要と考えられる視点を示すこととしています。
4 企業を取り巻く経営環境の変化と取締役会のあり方について
続いて、意見書(2)は、上場会社を取り巻く環境がグローバル化、技術革新の進展、子高齢化、社会・環境問題への関心の高まりなどにより大きく変化し続ける中、会社が直面する経営上の課題も複雑化しており、日本の企業の多くが、必ずしもこうした変化に即応できていないのではないかと指摘されていることを紹介し、以下の視点を示しています。
(1) 最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方
CEOとしての資質を備えた人材が不足しているという課題へ対処するため、CEO候補者の人材育成及びCEOの選任には、中長期的な観点から、十分な時間と資源をかけて取り組むことが重要であること、選任のための後継者計画の策定及び運用にあたっては、社内論理のみが優先される不透明なプロセスによることなく、客観性・適時性・透明性を確保するような手続が求められることが指摘されています。
また、CEOに問題があると認められるような場合には、CEOを解任できる仕組みを整えておくことが必要である。その際にも、取締役会が適時・適切にCEOを解任できるよう、取締役会の経営陣からの独立性・客観性が十分に確保されていることが重要であることが指摘されています。
(2) 取締役会の構成
取締役会は、必要とされる資質・多様性を備えるとともに、独立性・客観性を確保していくことが重要であるとされ、以下の取組みが期待されています。
① 会社の事業・ステージ、経営環境や経営課題に応じて、取締役会メンバーの資質のバランスや多様性を充実させる取組み
② 経営環境や経営課題に応じ、社内では得られない知見や経歴を基に、中長期的な企業価値の向上に向けた経営戦略や経営陣幹部の選解任についての議論を含め、取締役会の役割・責務の発揮に積極的に貢献できる資質を持った独立社外取締役がより多く選任される取組み
③ 取締役会の独立性・客観性を一層確保するための取組み
④ 委員長を独立社外取締役とすることなど、監査委員会等が独立性・客観性を確保するための取組み
また、取締役会の構成に関する考え方、取締役候補の指名や経営陣幹部の選任に関する方針・手続の開示、個々の選任・指名についての説明が具体的に分かるようなものとなっていることが重要とされています。
(3) 取締役会の運営
取締役会は、戦略的方向付けとこれに基づく具体的な経営戦略や経営計画、会社の業績の適切な評価とこれに基づく経営戦略等の見直し及び経営陣幹部の選解任・報酬の決定、内部統制・リスク管理体制の整備といった議論を充実させていくべきであるとされ、議論の充実のため、論点の明確化、議案の絞込み、十分な審議時間の確保などの運営上の工夫が必要とされています。
また、社内業務執行取締役は、執行者としての役割にとどまらず、取締役として業務執行全体や他の取締役の職務の執行の監督等を行う役割も担っていることについて、認識を深めるべきであること、独立社外取締役が戦略的方向付け等の議論に貢献できるように環境整備を行うことが必要であり、独立社外取締役の役割・責務として、少数株主をはじめとするステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映させることが重要であることが指摘されています。
さらに、不祥事防止の観点から、内部通報の機能を十分に発揮させるため、社外取締役・社外監査役を内部通報のレポートラインとするなど、経営陣から独立した窓口に情報が伝達される仕組みを整備することが適切であるとされています。
(4) 取締役会の実効性の評価
本年5月末をもってコード適用開始から一年が経過することから、取締役会の構成や運営状況等の実効性について、適切に評価を行うことが期待され、取締役会メンバー一人一人による率直な評価がまずもって重要となるとされています。
また、取締役会の実効性を適確に評価するためには、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けて、取締役会が果たすべき役割・責務を明確化することがまずもって求められ、評価の実施にあたっては、こうした役割・責務に照らし、取締役会の構成・運営状況等が実効性あるものとなっているかについて、実質的な評価を行うことが必要であるとされています。
さらに、取締役会が、その資質・多様性や運営を充実させていくためのPDCAサイクルを実現するに際しては、自らの取組みや実効性の評価の結果の概要について、ステークホルダーに分かりやすく情報開示・説明を行うことが重要であるとされています。
5 まとめ
意見書(2)は、最後に、意見書(2)を参考に、資質とリーダーシップを有する取締役を計画的に育成・選任し、独立性・客観性を備えた取締役会を構成すること、取締役会の適確な評価を行うことにより、取締役会の実効性向上に向けたPDCAサイクルを作り上げていくことが期待されるとしています。