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コラム
管理費等滞納者に対する競売請求の可否についての考察-区分所有法の検討-
2011年04月
弁護士: 山下 侑士
分 野:
1 はじめに
分譲マンションなどで、ある住人(区分所有者)が多大な迷惑行為を行っている事例は、残念ながら少なからず見受けられます。一概に迷惑行為と言っても様々なものがありますが、区分所有法(*1)59条は、ある一定の場合に、管理組合法人等がその住人の有する区分所有権等の競売を請求して、強制的にその区分所有権等を奪うことができるとしています。
本コラムでは、区分所有者が管理費等を滞納していた場合を念頭に、法59条に基づく競売請求の可否につき検討を行います。
2.区分所有法59条の要件
まず、法59条に基づく競売請求が認められるための要件を簡潔にまとめると、次のようになります(*2)。
① 区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと
② 区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと
③ 他の方法によっては区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること、以下①~③の各要件をそれぞれ検討します。
3.「①区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと」の意義
区分所有者は、各自が区分所有する部分(専用部分)につき、自由に使用・収益・処分することができますが、「区分所有者の共同の利益に反する行為」はできないと定められています(法6条)。
それでは、管理費等を滞納したことは、「①区分所有者の共同の利益に反する行為をしたこと」に該当するのでしょうか。
東京地判平18・6・27判時1961・65によると、「一部の区分所有者が管理費等の支払をしない場合、その区分所有者は他の区分所有者の負担で共同使用施設等を利用することになる。このような事態は他の区分所有者の迷惑となることは明白であり、区分所有者の間で不公平感が生じ、管理費等の支払を拒む者が他にも現れることが予測され、最終的には、マンション等共同住宅全体の維持管理が困難となるものと考えられる。」として、上記①に該当するとしています。具体的な事案においては、約2年10か月で滞納額約117万7420円(*3)、約5年半で滞納額約170万円(*4)のケースで、上記①に該当するとしたものがあります。
したがって、管理費等の滞納の場合でも、上記①に該当する可能性はあるといえます。
4.「②区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと」の意義
次に、管理費等の滞納が上記①に該当するとしても、「②区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと」が認められなければなりません。法59条に基づく競売請求は、その区分所有者の区分所有権等を強制に剥奪するものであることから、(上記③と併せて)一定のハードルが課せられているのです。
裁判例の中には、滞納期間や滞納額からみてこの要件が欠けるとし、請求を認めなかったものがあります。(*5)
5.「③他の方法によっては...困難であること」の意義
ここでいう「他の方法」とは、法59条の競売請求以外の民事上の方法(法57条、58条の請求や法7条に基づく先取特権の実行としての専有部分の競売等)をいい、それ以外の方法(例えば告発(刑訴230条)、告発(刑訴239条)等)は含まないと解されています。
裁判例によると、具体的には、滞納管理費等に係る『支払督促の申立て』、『訴訟の提起』、『先取特権の実行』、滞納者の財産に対する『強制執行』、『和解の可能性』の有無等の要素が考慮されています。また、管理費等滞納のケースにおいて、法58条の専有部分使用禁止請求が「他の方法」に含まれるかについては、大阪高判平14・5・16判タ1109・253が、管理費等の滞納と専有部分の使用禁止(法58条)とは関連性がないことを判示しているため、否定に解すべきです。
6.まとめ
このように、法59条に基づく競売請求は、強制的にその区分所有者の区分所有権等を剥奪するという強力な効果を生じさせるため、要件に一定のハードルが設けられています。そのため、上記①~③の要件に該当するか否かについては、詳細にその事案を分析したうえで、場合によっては、綿密な計画を立てることが必要となります。また、法59条によって競売に至るまでには、(今回は省略しましたが)別途、複数の手続的な要件をクリアすることが不可欠です。
そのため、法59条に基づく競売請求を検討される場合には、弁護士に相談して、適切な措置を採ることをお勧めします。
(*1)区分所有法:「建物の区分所有等に関する法律」(文中では、「法」と記しています。)
(*2)本コラムでは手続的な要件は省略しています。
(*3)東京地判平17・5・13判タ1218・311
(*4)東京地判平18・6・27判時1961・65
(*5)東京地判平16・10・29LLI/DB05934412など
(*参考文献)
■稻本洋之助・鎌野邦樹著「コンメンタールマンション区分所有法(第2版)」(日本評論社、2004年)
■鎌野邦樹・山野目章夫「マンション法」(有斐閣、2003年)