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コラム

「心理的安全性」の重要性

2022年11月

 先日、心理的安全性とは何かを考えさせられる機会がありました。

ハラスメント研修のご依頼をいただき、担当取締役の方とその事前打ち合わせをしていた際に、従業員同士は比較的仲がよい雰囲気ですとのことでした。このご発言で、心理的安全性はある職場なのかと思ったのですが、当該担当取締役の方は、真の意味での心理的安全性には欠けており、異論を述べられる環境が確保できていませんとおっしゃられ、真の心理的安全性とは何か、また、その重要性を考えさせられました。

 エイミー・C・エドモンドソン著「恐れのない組織」において述べられていますが、感じよく振る舞うことは、心理的安全性と同意ではなく、対照的に、心理的安全性とは、さまざまな観点から学ぶために建設的な対立を厭わず率直に発言することができることだとされています。そして、会議の場では沈黙していたのに、会議終了後に、あの論点については実はこのような意見であるなどということが起きるのは、会議に心理的安全性が確保されていないと指摘されています。皆様の関係される会社や団体などでも、思い当たられる例はないでしょうか。

 品質不正を繰り返してしまったある上場企業の第三者委員会の調査報告書においても、仲が良いという内輪意識から、不正に対する他部署による牽制機能が働かなかった、前例がそうなっていた、前任者もしていたなど、長年に渡って複数人が関与していたことにより、問題を指摘しても助けてもらえないと感じざるを得ない空気があり、異論を唱えることができなかったという背景があったようです。

 また、上場企業の実務指針であるコーポレートガバナンスコード原則4-12においては、取締役会における審議の活性化のため、「取締役会は、社外取締役による問題提起を含め自由闊達で建設的な議論・意見交換を尊ぶ気風の醸成に努めるべき」とされていますが、外部の社外取締役を受け入れる環境に心理的安全性がなければ、審議の活性化を実現することも困難であるといえます。

 日本企業は、失われた30年とも言われる経済状況において、円安、物価高に見舞われ、前例が通用しない大変なかじ取りを迫られています。そのような状況において、企業のトップが、多様な価値観を大切にし、従業員が気づいた課題や意見があるのに沈黙してしまうことのないよう、心理的安全性のある職場環境を整えるためのリーダーシップを発揮することこそが、今後、企業が成長していくために非常に重要であると感じます。

 建設的な意味において異論を唱えられ、異論を唱えた場合でも、排除されることなく、検討のうえ、取り入れられる可能性もあると信じられる環境にしていくことを、トップはもちろんのこと、関係者全員で自分事として目指せるようになると、主体的に様々なアイディアや改善策が検討され、実現されていくよいサイクルが生まれるのではないでしょうか。トップが心理的安全性の確保についてしっかりと目標を掲げ、従業員同士のディスカッションを含む気づきのある研修を実施することは、ハラスメント防止に役立つだけではなく、企業文化を変革する一つのきっかけとなりえるのではないかと思います。

                          

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