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コラム

取締役会の多様性~女性役員の登用拡大による企業価値の向上~

2023年05月

弁護士: 福塚 圭恵

分 野: 株主総会・取締役会

1 取締役会の多様性(日本の現状)

 「多様性」「ダイバーシティ」という言葉をよく耳にするようになって、ずいぶんと時間が経ちました。企業においては、ESG(Environment・環境、Social・社会、Governance・ガバナンス)に関する社会的課題の解決に取組むことが求められており、ガバナンスに関する取組みの一つとして、「取締役会の多様性」が求められています。

 我が国における「取締役会の多様性」は、主として、女性役員の登用の問題として捉えられており、多くの企業が女性役員の登用拡大に取組んでいます。

 日本における女性役員数は、9年間(2012年から2021年)で約4.8倍に増加したものの(令和4年4月21日 内閣府男女共同参画局「諸外国における企業役員の女性登用について」(以下、「本件内閣府資料」といいます)10頁)、女性役員割合は12.6%であり、諸外国に比べればまだまだ低く、例えば、フランスにおける女性役員割合が45.3%であることと比較すると、日本における女性役員割合はフランスにおける女性役員登用割合の3分の1にも到達していない状況です(但し、いずれも2021年時点の数値)。

※本件内閣府資料11頁より

2 企業が女性活躍に取組むことによるメリット

 本件内閣府資料によれば、企業が女性活躍に取組むことのメリットとして、①女性活躍の状況が投資判断で重視されている、②女性が活躍できると利益率は高く、両立支援があれば更に高まる、③役員に女性がいる企業のパフォーマンスは高い傾向にある、④経営幹部における女性割合が高い企業の株価パフォーマンスは高いという点が挙げられています。

 女性役員を登用し、「取締役会の多様性」をもたらすことは、企業価値の向上につながることが様々なデータから裏付けられているのです。

3 議決権行使助言会社の議決権行使基準等

 議決権行使助言会社であるISS (Institutional Shareholder Services) は、2023 年2月から、株主総会後の取締役会に女性取締役 が1名もいない場合は、経営トップである取締役に対して反対を推奨する基準を導入することを公表しており、同基準は全ての上場企業に適用されます。 また、同じく議決権行使助言会社であるグラスルイス(Glass Lewis & Co.)も、①2023年2月から、プライム市場の上場企業に求めるジェンダー・ダイバーシティ基準を固定数値方式から割合方式に変更し、プライム市場の上場会社に対しては、「最低でも10%以上」の多様な性別の取締役を求め、この基準を満たさない場合、監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社では取締役会議長、指名委員会等設置会社では指名委員会委員長に対し、原則として反対助言を行う方針であること、②プライム市場以外の上場企業には、従前のジェンダー・ダイバーシティ基準を適用し、多様な性別の役員を最低1名以上求め、この基準を満たさない場合、監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社では取締役会議長、指名委員会等設置会社では指名委員会委員長に対し、原則として反対助言を行う方針であることを公表しています。

 さらに、機関投資家においても、女性役員を登用しない場合や女性役員の割合が一定数を下回る場合には、株主総会における代表取締役の選任等に関する議決権行使において反対票を投じる基準を設けるケースがみられます。

 このような議決権行使助言会社の議決権行使基準等を見れば、株主が企業に対し積極的な女性役員の登用を求める傾向が、ますます強まっていることは明らかです。もっとも、前述したとおり、企業が女性活躍に取組むことには様々なメリットがありますので、企業においては、株主から賛同を得るためだけではなく、女性役員の登用が企業価値の向上につながるという点をプラスに捉え、女性役員の登用、「取締役会の多様性」の実現に向けて積極的に取組んでいただきたいと思います。

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