COLUMNS
コラム
ビジネスと人権
2023年05月
弁護士: 林 祐樹
分 野:
日本政府は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」(国連指導原則)を踏まえ、2020 年に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」を策定・公表し、様々な取組みを進めており、その一環として、2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「GL」といいます。)が策定・公表されました。
GLでは、企業による人権尊重の取組みが求められています。具体的には、企業は、その人権尊重責任を果たすため、ア:人権方針の策定、イ:人権デュー・ディリジェンス(以下「人権 DD」という。)の実施、ウ:自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合における救済が求められています。
ア:人権方針の策定については、①企業のトップを含む経営陣で承認されていること、②企業内外の専門的な情報・知見を参照した上で作成されていること、③従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者に対する人権尊重への企業の期待が明記されていること、④一般に公開されており、全ての従業員、取引先及び他の関係者にむけて社内外にわたり周知されていること、⑤企業全体に人権方針を定着させるために必要な事業方針及び手続に、人権方針が反映されていること、という5つの要件を満たす人権方針を通じて、人権尊重責任を果たすという企業によるコミットメント(約束)を企業の内外に向けて表明するべきであるとされています。
イ:人権DDは、企業が、⑴自社・グループ会社及びサプライヤー等における人権への負の影響を特定し、⑵防止・軽減し、⑶取組みの実効性を評価し、⑷どのように対処したかについて説明・情報開示していくために実施する一連の行為を指すものとされ、人権DDは、その性質上、人権侵害が存在しないという結果を担保するものではなく、ステークホルダーとの対話を重ねながら、人権への負の影響を防止・軽減するための継続的なプロセスであるとされています。
ウ:救済とは、人権への負の影響を軽減・回復すること及びそのためのプロセスを指すものとされ、企業による救済が求められるのは、自社が人権への負の影響を引き起こし又は助長している場合であるが、企業の事業・製品・サービスが人権への負の影響と直接関連するのみであっても、企業は、負の影響を引き起こし又は助長している他企業に対して、影響力を行使するように努めることが求められるとされています。
GLでは、上記ア~ウの各項目について具体的な説明がなされていることから、企業が「ビジネスと人権」の問題に取り組むに当たり、必ず参照すべきものと思われます。もっとも、GLの内容は、実務レベルで何をすればよいのかについてイメージしにくい可能性があるため、2023年4月に経済産業省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料」を公表しています。
現状でも、企業の皆様が人権方針を作成の上、人権DDの一環として取引先等に対し、人権尊重に関する一定の事項の遵守等を求めたり、あるいは、取引先等から、人権方針に従い、そのような事項の遵守等を求められたりすることが少なくないと思われます。
基本的人権の擁護は弁護士の使命であることから(弁護士法第1条第1項)、人権尊重の取組みについてお悩みの際は、ご相談をいただければと思います。