COLUMNS
コラム
民事訴訟記録の閲覧・謄写について
2023年10月
弁護士: 溝渕 雅男
分 野:
第1 訴訟記録とは
弁護士にとっての一つの主戦場は民事訴訟です。民事訴訟においては、様々な書類が作成されます。
訴状、答弁書、準備書面という、通常弁護士が作成する当事者の主張を記載した書面だけでなく、事件に関係する証拠書類も裁判所に提出されます。また、証人尋問や本人尋問が実施されれば、それら尋問の内容が、口頭弁論調書に添付される形で証人調書等として残されます。判決に至ることになれば、判決文も作成されます。
これら一連の書類は、訴訟記録として裁判所に保管されています。なお、正確には、「訴訟記録とは、一定の事件に関して裁判所及び当事者の共通の資料として利用される、受訴裁判所に保管される書面の総体をいう」とされています。
第2 訴訟記録は見ることができるのか?
ネットやニュース等で、民事訴訟になっている事件を知ることもあると思います。
では、「この事件の訴訟記録を見たい!」と思った場合、どのような資格があればそれが可能になるか、ご存知でしょうか。
実は、民事の訴訟記録は、原則として誰でも見ることができます。民事訴訟法91条1項は、「何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。」と定めています。150円の収入印紙を貼れば、誰でも訴訟記録を見ることができるのです。
気になる判決があった場合(普通の人はあまりないでしょうが)、その訴訟で当事者がどんな主張をしたのか、どんな証拠を出したのかを見ようと思えば、見ることが可能なのが原則なのです。
なお、訴訟記録を見るだけではなく、コピーして持ち帰りたいとなると、ハードルが上がります。「当事者及び利害関係を疎明した第三者」でなければ、訴訟記録のコピー等は許されません(民事訴訟法91条3項参照)。
第3 訴訟記録を見られないようにできるのか?
誰でも訴訟記録を見ることができる以上、企業間の重要な営業秘密が問題となっている訴訟等では、その営業秘密が一般に公開されてしまうというリスクがあります。
当然ながら、法律はそのような場合に備えています。
例えば、訴訟記録の中に「私生活についての重大な秘密」が記載されている場合や、その部分が見られてしまうと「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」場合、又は、「営業秘密」が記載されているような場合、その部分は見られないようにして欲しいという申立てを裁判所に対して行うことができます。裁判所が申立てを認めてくれれば、その部分は閲覧が制限されることになります(民事訴訟法92条1項1号・2号)。
第4 弁護士が訴訟記録を閲覧するとき
我々弁護士は、仕事として訴訟をしていますので、野次馬根性で全く関係のない訴訟記録を閲覧しにいくことはありません。
一番多いのは、自分が担当している事件と関係している別訴訟の訴訟記録の閲覧です。例えば、JVから受注した工事について訴訟になっている場合、他の下請業者との間で係属している訴訟の記録を閲覧したり、利害関係を有するような場合は訴訟記録を謄写したりします。
個人的には、訴訟に強いとされる弁護士の手がけた訴訟記録を閲覧したいと思っています。その時間を取ることはなかなか難しいのが現状ですが、時間が取れれば、ふらっと訴訟記録の閲覧に行こうかと考えています。