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コラム

企業価値担保権の創設について

2024年07月

弁護士: 林 祐樹

分 野: ベンチャー法務、IPO

1 企業価値担保権の創設

 本年6月に「事業性融資の推進等に関する法律」(以下「法」といいます。)が成立し、いわゆる企業価値担保権が創設されました。

2 企業価値担保権の概要

 企業価値担保権は、会社の総財産(将来財産を含む。)を目的物とするものであり(法7条1項)、債務者・設定者は株式会社又は持分会社に限られ(法7条1項、2条2項)、他人の債務を担保するために設定することは禁止されています(法13条1項)。

 また、企業価値担保権の設定に伴う権利義務に関する適切な理解や取引先等の一般債権者保護等、担保権の適切な活用を確保するため、新たに創設する信託業の免許を受けた「企業価値担保権信託会社」が担保権者となりますが(法8条、33条2項ほか)、被担保債権の債権者には制限はありません。

 対抗要件は商業登記簿への記載とされ(法15条)、他の担保権との優劣は、他の担保権の対抗要件具備と企業価値担保権に係る登記の先後によって決せられます(法18条1項)。

 債務者は、企業価値担保権を設定した後も、担保目的財産の使用、収益及び処分をすることができますが、通常の事業活動の範囲を超える担保目的財産の使用、収益及び処分など、一定の行為をするためには、全ての企業価値担保権者の同意を得なければならず、これに違反して行った債務者の行為は無効とされます(但し、善意無重過失の第三者には無効を対抗することはできません。)。

 また、粉飾等があった場合を除き、経営者保証を利用することが制限されます(法12条)。

3 企業価値担保権の実行手続の概要

 被担保債権の履行遅滞等があった場合、企業価値担保権者が裁判所に対し、実行手続開始の申立てを行います(法61条、70条2項、83条1項等)。

 裁判所は、管財人を選任し(法109条)、債務者の事業の経営並びに担保目的財産の管理及び処分をする権利は、管財人に専属することになります(法113条1項)。

 管財人は、共益債権(債務者の事業の継続に必要な商取引債権や労働債権等)を弁済しつつ事業を継続し、裁判所の許可を得て事業譲渡を行い、目的物の換価を行います(法157条1項)。その際、裁判所は、配当を受ける債権者や労働組合等の意見を聞くこととされています(法157条4項)。

 管財人は、事業譲渡代金から債権者に対する配当を行いますが、事業譲渡代金の一部は一般債権者等のために留保されます(法166条)。

4 まとめ

 企業価値担保権は、事業全体を担保目的物とするため、担保に供するのに適する資産(不動産等)を有しておらず、資金調達が難しかった会社でも、資金調達ができるようになる可能性があります(事業性融資の推進が法律の目的の一つでもあります。)。

 また、企業価値=担保価値となるため、債権者は自らの担保価値を維持・増加させるため、債務者の経営改善を積極的に行うことが期待され、結果として倒産リスクが減少することが期待されます。

 もっとも、新たな担保権を創設するものであるため、実務上の問題点等の洗い出しやその対応はこれから検討されることになるものと考えられ、実務運用(裁判所の運用や管財人の業務内容を含む。)も最初は手探りであり、運用が固まっていくにも相当の期間を要するものと思われます。

 引き続き、注視して参りたいと思います。

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